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本の話題にもどるとおすすめの本や読書についてのものはどうも小説や文芸、ノンフィクションあるいはエッセイが多く、誤解を招きやすいけれどぬるま湯系が幅を利かせているようで、もう少し硬派というか知の格闘を意識させるものがあって双方のバランスがとれるというものじゃないだろうか。硬派のものに面白いものがあるか、と問い返されるとおよそ読書人としては貧しく騙りのあるぼくとしては返答に窮しますが。〈こちらが教えて欲しいぐらい。〉 器用なタレントものも軽いし貴重で読みたいがそればかりではものたらない、借り物ではない姿勢がピンと通っているものも読みたい。背伸びというより探求の足どり、姿勢が伝わってくる感じのものといったらよいのか、重い本ってありますね、ズシッとくるやつ。  

姿勢といえば、そこに白上謙一がいる。 ぼくはリアルタイムで著者についてももちろんのことこの本のことを知らず悔しい思いをした。青年時代だからこそ触発されるものも多いはずなのに。 時代遅れの声が聞こえそうだが白上謙一の『ほんの話――青年に送る挑発的読書論――』(*教養文庫)(単行本『現代の青春におくる挑発的読書論』*昭和出版)なんてどこが気に入っているかというとその姿勢ですね。背筋を伸ばして読書という行為をたんねんに綴っていて探索の道に一歩踏み込んでいる感じ。もちろん寝ころがって読んでも構わないんでしょうが、「精神」がにじみでてくるようなところが白上にありませんか。 白上は昭和10年代に青春を過ごした方で昭和40年代の学生に向かっての読書論なのだが自身の歴史を見る意識が一本貫いていて、それでいて話題は通俗から古典まで多岐にわたり、圧倒されます。生物学者にしてこの幅の広さ、今この時代に白上が生きていたらと思う。
白上は自宅にきた学生から「先生、これみんな読んだんですか」の問いに平然とこたえている。

「読みたい本を買ったからといってあわてて読むことはない、座右におきさえすれば本なぞというものは、一頁も開かないで読めてしまうものである。」

さすがです。白上の凄いところは社会科学がきっちり入っていること、これが案外スッポリ抜けているんですね、最近の〈読書案内〉には。とはいえそちら一辺倒にいかないで「日本の探偵小説十選」なんて章があるからイイんですね。ホントの読書家だと思います。
〈白上の存在を知ったのは生松敬三『書物渉歴』(*みすず書房全二巻)から。Tに紹介がある。〉

良知力『魂の現象学 一社会思想家として』(*平凡社)にも本と人生についてのエッセイがいくつかあるが(「T思想史への出発点」参照)自嘲に満ちたことばのなかに良知の原体験が顔をだし痛ましいほど、白上に共通したものを感じさせませんか、どちらにも脱帽。
学生を対象にして書かれた文章だが、本はめぐりあうもので一般論は通用しない「自分で開拓すべきもの」という態度は小気味良い。

「学生時代は型を身につけること、自分にあった型を選んで着こなすまでが苦労だがそれが個性だ、ただし手軽なものはすすめない人生の選択につながっていくからだ」という話も印象深い。良知おすすめの本をあげておきましょう。知的緊張感が漂ってくるようなリストです。「  」内は良知のことば。

内田魯庵『蠧魚之自伝』『獏の舌』
「皮肉な筆致でひたすら本について語りながら、その実、本をとおして人生に臨んでいる」
宮武外骨『筆禍史』
「……ここには日本人には珍しい徹底した記録精神ときわめて骨太な反骨がつらぬいている」
上原専禄『歴史的省察の新対象』(*未来社 『上原専禄著作集』第十五巻 評論社)
良知は今一度学生時代に戻れるなら『資本論』を読みぬこうと思う、と書いている。
白上謙一 1913年生 1974年没
良知力   1930年生 1985年没
〈白上謙一は自然科学それも動物学専攻、良知力は社会思想史家。ちなみにぼくは白上、良知のあげている本のほとんどを読破していない。つくづく不勉強を恥じ入るばかり。しかし、インプットしておけばいつかご対面のチャンスはあるでしょう、ゆっくりいこう。〉

たとえば山本善行『関西赤貧古書道』(新潮新書)などは人柄もよくほのぼのとしていて、いい気持ちで読んでいける好著だと思う。『古本泣き笑い日記』(青弓社)もそうだけれど出てくる本のシブいことシブいこと、ぼくの関心の方向と触れ合うところは少ないが教養のありかというか通人の深みからみたら山本の目配りのほうがはるかに上、今の愛書家のひとつの傾向を示しているようだ。少しはぼくも勉強しなくっちゃ。本好きといってもこっちとら狭くて。古書ばかり追いかけているわが身を振り返り、「いい歳をしてぼくはなにをしているのだろう」とつぶやく辺りのおかしさ、身につまされますね。
けれども本の世界は人それぞれの関心にそって読まれるものだからレベルの違いはどうであれ浅く深く、あるいは通俗から古典的大思想まで何が読み手の魂というか心を揺さぶるか分からない、読書人がとりあげないリストをあげてみましょうか、手軽かもしれませんが理屈ぬきでとにかく読ませます。

川上健一『翼はいつまでも』(集英社・集英社文庫)
中学生を主人公にした青春前期小説。エグりますよね、直球勝負という感じで胸が詰まります。
川上健一『ららのいた夏』(集英社・集英社文庫)
泣けますよラストで。こちらは高校生が主役。
そのまんま東『どん底』(*音羽出版)
迫ります、起点はともあれ内面へ向かっていく力。タイトル通り。
生島治郎『片翼だけの天使』(*集英社文庫)
一気にいけます。ベストセラーだったとのことです、当事。シリーズ化。
読売新聞社会部『ドキュメント新聞記者』(*角川文庫) 事実を追う迫力はどうか、唸りました。この時期の黒田軍団のレポートは熱い。

どの本も愛書家のリストには入ってこないだろうけれど(川上のは例外でしょうが)侮れませんよ、この面白さは。高踏だけれどツマラナイと切ってすてるのも簡単ですし通俗すぎてどうもね、という向きもあるでしょうが、ぼくの選択の基準は事大主義とある高みにたって訓を垂れるタイプのものは敬遠しておきましょうということぐらい。もうひとつ、売れすじ本はあとでね、と遠慮します、へそ曲がりなんですね。急いで群がることもないやね。

とてもかなわない
白上謙一
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