▽「まいまいつぶろ」(高峰秀子)に結婚式を目前に控えた慌しい日々のエピソードが日記風に紹介されている。銀座へ買物をして帰ってきたら「宮田先生、NHKの藤倉さん、そして新聞社の人たちが皆でおそばをつるつる食べていたのにビックリ」「何よォ、誰がおそば代払うのサア」、「その間も藤倉さんは、ちゃんと小さいマイクを片手でつき出し乍ら食べているのでおかしかった」(「結婚まで」 かなづかい一部現代表記に変更─引用者)。藤倉さんの「マイク交友録」では「ときどき、麻布のお宅にお邪魔して、アルジが留守でも上がり込み、遠慮なく永坂の更科のそばをごちそうになる・・・」(「デコちゃんのこと」)とあります。ふたつの話題はピッタリ符合するのですが、藤倉さんはその後(返礼のため)おふたりを料理店へ招待したと続けています。ふたつの本のそれぞれの章をじっくり読むだけでも時間がゆったり流れていて、こんな場面や人物にどこかで会ったような懐かしさを感じますね。おおげさに云えば 明治を受け継いだ方たちのひたむきさ、あるいはおおらかさというのか、それらは昭和の時代にもある彩りを残しているような・・・。 続 <9月12日>
▽藤倉修一さんといえば師と仰いだ方は伝説のアナウンサー和田信賢、「マイク人生うらおもて」ではその思い出がつづられています。和田信賢については幸いにも山川静夫さんの名著が残されていて放送史とともに個人史をたどることができる(「或るアナウンサーの一生 評伝和田信賢」)。山川さんが和田に惹かれるひとつとして無頼性をあげていますが、ふたつの本を読みながら思わず映画監督川島雄三をぼくは思い浮かべてしまった。さらに「私のNHK物語」では和田へのクローズアップの眼がロングに引かれて「アナウンサー馬鹿」ということばさえ飛びだしてくる。かっての藤倉(山脈と続けたいほどこの方が占める位置は重く大きい)、志村正順、宮田輝、高橋圭三らの傑出したアナウンサーたちの職人気質は仕事も遊びも猛烈、そこから「粋」「間」「人間」を学んだとある。 続 <9月16日>
▽黒柳徹子さんが「私のNHK物語」文春文庫の解説で「ストレスのある人には薬になる」本だと書いています、ソフトな語り口なのにチラッと見える気骨を指してのことでしょうか。マイクに慣れた現代の若者の思いあがりに怒り「知識や経験が少なすぎる。礼節も欠いている。更に、一つのものに時間をかける忍耐力も不足している。それなのに、目標はジャーナリストでありキャスターである」、もちろんこれらの指摘はNHKの教育や志望の若者の感覚についての意見です。アナウンサーはつまるところ「個」なのだから「自分を生かすための孤独で長い練磨」を自分の足で積み上げるしかないのだ、という姿勢には徹底した職人気質の系譜に山川さんも入るんだな、と微笑ましいほど。先輩たちから脈々と受け継がれてきた「青年の活気」を感じますね。 続 <9月18日>
▽もうひとつ山川さんの「私のNHK物語」で印象的なのが宮田輝さんの業績とその後(政界進出)について。高橋圭三とともに一時代を築いた黄金時代、とりわけ地方の人気は圧倒的で「カリスマ的な存在」だった。昭和49年参議院出馬、しかし政界は選挙の応援やパーティーの司会者として利用することばかり考えていたのではないか、「テルさんが逝って今、テルさんが生命をかけてやりとげたかったのは、やっぱり放送の仕事ではなかったか」と痛恨の想いで偲んでいます。この場面を読むと圧倒的な人気を得てマスコミの注目をあびながら、逆にスポイルされていく怖さを感じさせます。今でも一部のアナウンサーへ向けられる視線は同質のものを感じますがどうなんでしょう。和田や藤倉が目指したのはこういう(アナウンサー)の地位の向上だったのでしょうか。 続 <9月21日>
▽日本映画に黄金時代があったようにラジオ、テレビ放送にも輝ける一時代があった。藤倉の「街頭録音」、志村の相撲・野球放送はラジオの時代、テレビでは宮田、高橋、木島則夫、小川宏と続く番組の顔の時代。映画や活字に比べるとそれらの業績が豊かで大きな楽しみを与えてくれた割には軽視されるのは消えもののせいでしょうか。「志村正順のラジオ・デイズ」(新潮文庫 尾嶋義之)が志村語録を書きとめているのはありがたい。いっそ実況録音CDを付けて即時描写の数々をドキュメントできないものか。マイク職人列伝によって粋なことば、軽妙な会話、瞬間芸を追体験したい、と思っても適わないのが現状。市販のソフトがない。本も少ないですね、わずかにご本人による著書で足どりを知ることができるものの放送は聴くことができません。語りそのもの、は依然として軽んじられ消えたままでは寂しい。 続 <9月25日>
注目の新刊書
▽「サトウハチロー 僕の東京地図」ネット武蔵野 2005年 ¥1,470 原本は昭和11年 春陽堂文庫。「私説東京繁昌記」(小林信彦)でこの本を知り気にしていたのですが復刻版(70年ぶり!)がでていました。「悪童ハチローの可笑しくも懐かしい横丁学」と帯にあります。金も暇もたっぷりかけて実に愉しげに東京をスケッチした貴重な記録。<9月26日>
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