▽加藤治子の名著「ひとりの女」と高峰秀子の最初の本であり新書版で刊行された「巴里ひとりある記」で今年の入荷本の紹介は終了です。年末年始の休みはDVDで刊行された「典子は今」を見て、CDでも発売された「言葉は怖い」(向田邦子 昭和56年の講演を収録)をもう一度聴いて─志ん朝の火焔太鼓の話題がでてきます─、茨木のり子の詩集を読んで、録画しておいたマキノの「次郎長三国誌」シリーズも見て・・・といろいろ予定を組んでいるのだけれどそろそろパソコンの引っ越し(買い替え)も準備しなくちゃいけないし、どこまで希望が叶うことか。茨木のり子の詩に「みずうみ」といのがありますね、<だいたいお母さんてものはさ/しいん/としたとこがなくちゃいけないんだ>(/は行換え 太字は強調付)で始まることば。「お母さんだけとはかぎらない/人間は誰でも心の底に/しいんと静かな湖を持つべきなのだ」・・・そんな「静かな湖」の時がゆっくり近づいてくる年末年始。来年もよろしくお願い申しあげます。 <12月29日>
▽先日デパートの書店で岩谷時子の評伝があるのを見つけた(「歌に恋して」ランダムハウス講談社 田家秀樹 定価1,785円)、やっと刊行されたんですね。本のデーターなどを入力していく作業は地味で単調だから音楽を聴きながらということもあるのですが「Dear FriendsV」(岩崎宏美 このシリーズは現在Wが発売中とのこと、まだUとVしか聴いていないのですがパーフェクトにいいアルバム)の「つばさ」には聞き惚れてしまい何度もことばを追いかけた。誰だろう、この詩を作ったのは? ・・・岩谷時子!またしても。
どうしてこの巨人の評伝や評論がないのか不思議だなァと思っていたものだから「やっと」という想いなのです。口絵にスナップ写真がありますがいい顔してるんですヨ、精神が顔にでている感じですね岩谷時子。プロローグは本田美奈子とのいきさつ(病院が同じだったとあります)から始まっています、ゆっくり読むとしよう。
余談ですが向田邦子と岩谷時子を線で結んだ方がいます。
「僕の向田さんの印象はどういうわけか作家の幸田文さんと作詞家の岩谷時子さんに似ている気がしました。」(「演技者 小林桂樹の全仕事」ワイズ出版 1996 304ページ)
小林桂樹のことばはずっと気になっている一言ですが鋭いものを含んでいるんじゃないか。
▽「向田邦子全集」(全3卷 文藝春秋)があるのは知ってはいた、ぶ厚い3卷本で・・・。しかしシナリオを排除した全集じゃァ何の意味があるのかと敬遠していたのですが食わず嫌いはいけませんね、「補遺」(第2卷に収録)に宝石が隠されていました。「せりふ」というタイトルで昭和54年に発表されたいわば向田流シナリオ論考、キラキラ光ることばが綴られています。「・・・聞かせたいせりふは一輪挿しです。」「ふつうの言葉でゆたかな言葉をしゃべりたいと、つくづく思います。」「・・・おじいさんやおばあさんがしゃべっている言葉をさりげなく、テレビドラマに入れていく必要があるのではないか」 放送コードによる禁止語が「どれほど日本のテレビドラマを子供っぽく貧しくしていることか。」 そしてこう締めくくる、「私は『馬鹿』というせりふが放送禁止になったら、テレビドラマを書くのをやめようと、これは本気で考えています。」
9ページほどの評論ですから図書館の全集コーナーで一気に読めると思いますよ。ただ何回も読み返したくなる文章だと思いますのでコピーしておいた方か賢明でしょう。余談ですが「風のガーデン」(倉本聰)の何話だったか、昔の同級生たちに会ったらどうかとすすめるシーンで「和むわヨ、みんな相変わらず馬鹿だから」というせりふ(石田えりが中井貴一に)があったと思いますがストンと気持に入ってきました。
▽ローカル本の紹介はこの1冊でいったんは打ち止め。「古川ロッパとレヴュー時代 モダン都市の歌・ダンス・笑い」(早稲田大学演劇博物館企画展示図録 2007年5月 税込1,200円)は雑誌「サライ」よりいくらか大きなサイズで76ページ、とにかく編集(中野正昭)が素晴らしい。書店の夥しい雑誌類も写真や広告を派手に使って目を引こうとしているわけでしょうがこの図録は見えないところで丹念にして緻密な探求と蓄積があったことを伺わせる、昭和芸能誌(史)の貴重な文献になることでしょう。それにしてもロッパという方は几帳面だったんですね、自筆の日記の丁寧なこと、谷崎(潤一郎、松子)や正岡容、夢声らの書簡も掲載されていますがなんとロッパ宛の中山千夏書簡まである、巻末には「ロッパの新婚天国 別名 日本一仲のいゝ夫婦」台本まで掲載。まだ在庫はあるようです、早稲田大学演劇博物館→検索→刊行物一覧でたどりつけると思います。<12月14日>
2008年12月備忘録